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CLINIQUE
(クリニーク)
『あった!』
俺は思わず声を上げた。
『あったのか?』
隣の人間の顔は見えない。が、声の主が誰だかはわかる。同期の袋田だ。
『あぁ、袋田。あったよ。やっぱり倉庫が暗いと探すのが大変だな。』
まだ昼間だが倉庫の中はまっくらだ。普通なら高い天井からぶら下がっているライトに照らされて、空間の広さを感じる事が多い場所だけど、今日は停電の日。微かに漏れてくる日光と懐中電灯を頼りに商品を探すのが最近の俺の日課だ。
『いやー、ワザはいつも倉庫でやってるんだろ?大変だな。』
『まぁな。でも慣れると結構楽しいぜ。宝探しゲームみたいだしね。』
俺の名前は、昇龍 健(しょうりゅう けん)。格闘ゲームの必殺技に似てるからあだ名は「ワザ」。袋田とは同期の関係だ。普段は店頭に立つ袋田達が主役だが、まぁ今日は俺のストーリーを見てくれ。ちなみに俺の配属は「倉庫番」。はは、名前だけじゃなくて配属先もゲームみたいだぜ。
『へー、ワザは前向きだな。俺だったら一日こんなとこで仕事してたら憂鬱になっちゃうよ。』
『はは、まぁ、袋田は体育会系だから外が好きだしな。』
『あぁー、早く店頭に立ちたいなぁ!』
くそ、コレだから天然はやっかいだぜ。サラリと俺をディすりやがる。俺だって好きで配属されたわけじゃないんだ。
『そういえば、この袋はなんだ?』
『あぁ、これはCLINIQUE(クリニーク)だな。』
『国に行く?』
『あはは、クリニークだよ。ワザ。 1968年にキャロル・フィリップスさんっていう女性が立ち上げたブランドで皮膚科学からスキンケアにアプローチした画期的なブランドなんだよ。』
『有名なのか?』
『もちろん、ほとんどの人は知ってるんじゃないのかな。まぁ、これはメンズ用の袋で結構レアものだけどね。』
・・・こいつ意外に勉強している。
正直言って、俺は内心焦っている。花形と言われるトレジャーハンターで実績と知識を積み重ねる袋田といつかASIMOに仕事を奪われるといわれている倉庫番の俺の間に着実に差が出始めていることが今はっきりしたからだ。
『へぇー、袋田ってさすがに詳しいな。み、みんな、つまりトレジャーハンターになった同期はみんな知ってることなのか?』
『まぁ、よほどマイナーなブランドじゃない限りは大体同じくらいは知っているはずだよ。』
『そ、そうなのか。んで、そのクリニークってのは人気なのか?』
『あぁ、女性用は昔から人気だったけど最近は草食男子とかがお肌に気を使い始めてメンズ用が好調みたいだね。外に出ると紫外線とかで肌に刺激を与えるだろ?しっかりケアしないとね。やっぱり男も女も身だしなみは大切だからな。ま、大丈夫な人は大丈夫だけど。』
倉庫にこもりっぱなしの俺のことを言ってるのか?
俺はなぁ、空振りした竜巻旋風脚じゃねえんだよ!
ってな。落ち着け落ち着け。カッとなるとすぐにゲームの必殺技でツッコむ癖が出ちまう。ははは、とにかく口には出さないようにしないとまた昇進に響いちまう。落ち着け落ち着け。
『そうだな。そういえば、今日は店頭に誰が立ってるんだ?』
『今日は、町田店から応援で本田さんが来てるよ。』
『え、本田さん?あの社長候補って言われているエリートの本田さん?』
『へぇ、本田さんってそういわれてるんだ。うん、その本田さんだよ。』
ほ、本田さんが来てるのか。元相撲取りで無気力相撲どころか張り手と頭突きでムキムキ相撲をした結果腰をおかしくして、仕方なく廃業してウチの会社に入社してきたっていうすげぇキャリアの人だ。
『あとブラン力さんも来てるよ。』
『え!あのブラン力さんも!?』
ブラン・力(ブラン・リキ)さんは、ウチで初めて海外支社を出すって時にアマゾンに飛ばされて電気が通ってないところで店を構えて支社を成功させた伝説的な人だ。噂だと何か特殊な発電方法を編み出したらしいが俺も良く知らない。
『すげぇ、エリートと伝説が今この店舗にいるのか!なぁ、袋田。俺会いたいんだけど。』
『えぇ!?お前大丈夫か?ウチの中でもトップクラスの体育会系だぜ?』
『いや、同じ店舗にいるのに挨拶しないのも変だろ。な、お願い!』
こいつはすげぇ、チャンスが巡ってきた。ここで気に入れられれば一気に同期との差が縮まる。いや、縮まるどころか俺がリードするかもしれない。なんとしても、このチャンス手にしてやる!
『じゃあ、呼んでくるわ。さっきブラン力さんは飯行ったからもしかしたら本田さんしかいないかも。』
『あぁ、了解。』
『わかった。じゃあ行ってくるわ。』
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『おぅ、どいつだ。』
『こいつっす。』
す、すげぇ。何がすげぇって体格もだが、マワシだけで店頭に立ってるってとこだ。やっぱりこのクラスになると裁量権がありまくりだな、ウチは。
『は、はじめまして!自分は倉庫番をしています、昇龍 健っていいます。』
『ほぅ、見所がありそうな名前じゃな。なぁ、ブラン力?』
『オウオウー!』
『ありがとうございます!』
ブラン力さんまで来てくれた。こんなチャンス滅多にないぞ。
『オウオウー、オウー!』
『はっはっは、相変わらずお主は無茶ぶりが好きじゃのう!』
『オウオウオウオウ!』
『ということだ、やってみてくれ。』
くそ、ブラン力さんパネぇ。何言ってるか全然わかんねぇ。
俺は救いを求めるように袋田を見た。
『ひっさつわざをみせてくれ』
袋田がジェスチャーでポーズをしている。
そ、そうか。俺の名前が昇龍 健であのゲームってことにピントきたから、代名詞的なアノ技を見せてくれってブラン力さんは言ってるんだな。はは、飛び道具ね。わかってますよアレですよね、アレ。
やってやるぜ。俺はずっと倉庫でパズルをしてたわけじゃなないんだよ!これで、俺はこんなちっぽけなお茶の水支店をおさらばさ!本社勤務だ!
『かしこまりましたぁぁああぁぁぁあ!』
『おぅ、さぁこい!どすこいどすこい!』
『オウオウオウー!』
力がみなぎってくる!さぁ、勝負の時だ!
いくぜぇええぇ!
『ヨガファイア!!!!!!!!!!』
そして俺はインド支社へ飛ばされた。
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